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コントロール回路について

エレクトリックギター、ベースの電気回路

ギターやベースを内蔵する電気回路で大別すると、乾電池を使わないパッシブモデル、乾電池を使うアクティブモデルの2種類になります。
このページではパッシブ回路とそこに使われる部品について説明します。

可変抵抗器について

1.抵抗値

パッシブモデルのボリュームコントロールには、ハムバッカーピックアップ付のギターには 500KΩ、シングルコイルピックアップ付ギターやP/Jピックアップ付のベースには 300KΩ か 250KΩ、トーンコントロールには 300KΩ か 250KΩ が使われることが多いです。
これ以外の抵抗値でも、ボリュームコントロールとしては機能するのですが、抵抗の小さな可変抵抗器を使うと高域が削られた感じの音になり、逆に抵抗の大きなものを使うと明るめの音色になります。例えばハムバッカーが付いたギターのボリュームに 1MΩ の可変抵抗器を使用した場合、音色は高域がはっきりした、ややギラギラした音色になります。ただ、大きな抵抗値の可変抵抗器はノイズを拾いやすくなります。

2.変化特性

可変抵抗器を回転させたときに抵抗値がどう変わるかを示すものです。
パッシブ回路で音色の変化が人間の耳に自然に感じられるのは、Aカーブです。Aカーブの中にもその変化割合によって 05A や 15A と呼ばれるバリエーションがあります。
同じAカーブ250Kの可変抵抗器でも 05A250K、15A250K などの表示のある場合があります。回転軸を50%回転させた時に規格の何%の抵抗値になるか(05A=5%, 15A=15%)を示しています。
レフトハンド用のコントロールで可変抵抗器を逆回転で使う場合は、Cカーブのものを使います。

3.サイズ

30年ほど前までは、直径 24mm のものが使われていましたが、現在では直径 16mm のものが多くなっています。
可変抵抗器のメーカーにとっては、プリント基板に実装するタイプが主流であって、ギターで使うような、ナットで固定するタイプは直径 16mm のものでも、かなりマイナーな部類に入ります。
24mm と 16mm の差は感覚的な要素もありますが、今でも24mm の抵抗器を好む人は多いです。

4.回転トルク

ボリュームやトーンを回す時のトルクは重すぎても軽すぎても使いにくいものですが、可変抵抗器のトルクはシャフトとスリーブ(軸受部分)の間に塗ってあるグリスの粘度だけで調整されています。グリスの粘度は温度が高いと低く温度が下がると高くなるので、冬はトルクが重く、夏はトルクが軽くなるのは避けられません。トルクを厳密にコントロールすることはメーカーにとっても難しいようです。

5.可変抵抗器メーカーによる音の差

可変抵抗器は、基板の上に塗ってある炭素被膜の上を端子が移動することで抵抗値を変えるので、それなりの誤差があります。500KΩ の可変抵抗器と言っても、必ずしも 500KΩ でできているわけではありません。ボリュームを変えたら音が良くなったという話も時々聞きますが、おそらくは抵抗値の誤差がその理由ではないかと思います。同じ 500KΩ と表示されていても、交換前の実際の抵抗値が 480KΩ、交換後の実際の抵抗値が 520KΩ であれば、交換することによって音は明るい方向に変わります。

6.摺動ノイズ

可変抵抗器は、ケース内部で摺動子がカーボンを塗布した帯状の抵抗体の上を移動することで抵抗値が変化します。そのため、抵抗体の表面に傷や摩耗があると摺動ノイズ(ガリノイズ)が発生します。

抵抗体に起因しない摺動ノイズもあります。ギターのコントロール回路はブリッジを電気的なグランドとしてあり、可変抵抗器のケースもブリッジに結線されています。ブリッジや弦に手で触れるとノイズが減るのは、コントロール回路のグランドが人体とつながってアースに落ちるためです。

金属製のコントロールノブを手で廻している間は、コントロールノブと回転軸は人体を通してアースされた状態になります。しかし、回転軸とスリーブの間はグリスが充填されていて、電気的導通が不確実であるため、回転軸を廻すと軸受とケースが人体アースに落ちたり切れたりして、ノイズが発生します。このタイプの摺動ノイズを無くす方法として
・可変抵抗器を廻す時は弦に手を当てておく。
・樹脂製のノブや(金属製でも)内部に樹脂製ブッシュがあるノブに交換する。
あまり一般的ではありませんが、回転軸と軸受の電気的導通を確実にしたアースリング付の可変抵抗器もあります。

コンデンサーについて

1.容量

パッシブモデルの場合、トーンコントロールと言っても高域を減衰させるだけの回路です。つまり、トーンを右いっぱいに回した状態ではピックアップからの信号がそのまま出力され、トーンコントロールを左に回していくとその分、高域が削られていきます。トーンコントロールで使われている部品は、可変抵抗器とコンデンサーが1個ずつ、極めてシンプルな構成です。
コンデンサーは一般的に容量が 0.022MF(223と表示されています)や 0.047MF(473と表示されています)のものが使われます。これくらいの容量のコンデンサーだと、トーンコントロールを左に回し切った時、音色はかなり暗くなります。もっと小さい容量のコンデンサー(例えば4700PF)を使うと、左回し切った場合でもあまり音が暗くならないトーンコントロールになります。

2.種類とメーカーによる音の差

コンデンサーにはセラミック、マイラー、マイカ、オイルなど多くの種類があります。どこそこのメーカーのものに交換したら音が良くなるという話を聞くこともあります。ただ、パッシブ回路のトーンコントロールでは、コンデンサーの中を通った電気信号は、その高域成分がアースに逃げていくだけで、アンプに出力されることはありません。基本的に高域減衰型のトーンコントロールに付いているコンデンサーが音に影響するとしても、その影響はごくわずかだと思います。音に敏感な人はその違いが無視できないレベルだと感じるのかもしれませんが、その音の違いがコンデンサーの種類、構造以上にコンデンサー容量誤差に起因している場合もあると思われます。

線材やハンダの種類について

コントロール回路に使われる線材を太いものに、あるいは無酸素銅 (OFC) ケーブルに交換することでクリアな音になる傾向であることは実験で確認できます。
ただ、ギターの内部回路に使われる配線の長さからすると、効果はそれほどはっきりしないレベルです。
また、結線やプリント基板に使われるハンダの種類も音に影響します。
法律で規制されて使われることの少なくなった有鉛ハンダを使用すると、無鉛ハンダより太い感じの音になります。エレアコやベースの内蔵プリアンプでは、この半田の違いによる差は意外と顕著です。

パッシブ回路のバリエーション

1.コイルスプリット

(下図の青色部分)
ハムバッカーピックアップは直列につないだ2つのコイルを持っていますが、その片側のコイルを鳴らさないようにするのが、コイルスプリットスイッチです。ピックアップのコイルが2つ同時ではなく、1つだけ鳴るようになるので、シングルコイルピックアップのような軽めの音色となり、音量も下がります。また、ハムバッカーピックアップの特長であるハムキャンセルが効かなくなるため、コイルスプリット時は、ハムノイズは増えてしまいます。通常のシングルコイルピックアップと比べると、マグネットの形式もコイルのサイズも異なるため、完璧なシングルコイルサウンドが出るわけではないのですが、ハムバッカーの太い音よりもシングルコイル系の軽い音を出したいときには便利なスイッチです。

2.ハイパス回路

(下図の赤色部分)
ギターのパッシブ回路は(トーンコントロールがフルになっていても)ボリュームコントロールを絞って音量を下げるに従って、音色が少し暗くなっていく特性を持っています。ボリュームを絞ってもピックアップ本来の音が出るようにするのがハイパス回路です。コントロール回路内に固定抵抗とコンデンサーを1個ずつ追加した簡単なものですが、ボリュームコントロールを絞った時でも、ピックアップ信号の高域成分は、赤色部分の回路を通って出力ジャックに流れていくため、音色が暗くなることがありません。

3.ピックアップの結線切替

例えば、ハムバッカー2基の結線をスイッチで切り替えて・・
- 2つのハムバッカーを直列接続(通常のハムバッカーサウンド)
- 2つのハムバッカーを逆相接続(低域が相殺された軽い音)
- ハムバッカーの2つのコイルを並列接続(ハムキャンセルを維持しながら、軽い音色)

下の回路図のようにこれらをすべて含んだコントロール回路にすることは可能です。ただ、スイッチ操作が分かりにくくなり、配線も複雑になるので、必要な機能だけに絞るのが現実的です。

4.ダイレクトアウト

パッシブ回路の場合、ボリュームコントロール、トーンコントロール両方がフルになっていても、ピックアップからの信号は回路中の可変抵抗器やコンデンサーの影響を受けています。下図の青色部分のような切替スイッチを付けて、ピックアップからのリード線を出力ジャックに直接つないでしまう回路をダイレクトアウトとかバイパスなどと呼びます。この回路では高域が全く減衰せずに出力されるので、かなり音色の違いが出るのですが、ボリュームやトーンコントロールが効かなくなり、また音色もちょっとギラギラした感じになるので、好き嫌いが分かれるところです。

5.ノイズキャンセル

ピックアップにノイズキャンセル機能を持たせることが多いですが、コントロール座堀内、あるいは、ピックアップに隣接した座堀内に空芯コイルを入れてノイズをキャンセルする例もあります。
この方法のメリットとしては、通常のピックアップが使用でき、ハムキャンセルが不要な場面ではノイズキャンセルコイルを簡単に切り離すことができます。
デメリットとしては、ノイズキャンセルコイルがピックアップコイルから離れた位置になり、1つの空芯コイルで異なる巻数のピックアップに対応するため、完全にノイズキャンセルできないことが挙げられます。また鳴らすピックアップに合わせて空芯コイルの結線方向を切り替える必要があるので、配線が複雑にもなります。