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木材の乾燥

木材を乾燥する意味

昔から木材は加工する前に長期間放置し、木材中の水分を減らしてから建材や家具に使用してきました。
木材を乾燥するメリットは以下が挙げられます。
1.加工後の変形、割れが防止できる
2.カビ、変色、腐敗を防ぐことができる
3.強度が向上する
4.加工しやすくなる
5.塗装がきれいにできる
6.接着が確実にできる

天然の材料である木材は、特性が不均一で、乾燥が不十分だと変形したり割れたりもしますが、逆に適正に乾燥さえすれば、そういう欠点をほとんど抑えて、木材の「加工しやすい」、「軽くて丈夫」、「外観が美しく触感も良い」、「音の響きが良い」などの長所を活かすことができます。乾燥は木製品を作る上ですべての基本となる最も重要な工程です。

木材の細胞

木の細胞は約70%がセルロース類、約20%がリグニンでできています。
木材には「丈夫で軽い」という特徴がありますが、これは主成分であるセルロースが繊維状の束になって強い細胞壁を作っているためです。リグニンは繊維状のセルロースの間に入っている充填剤のようなものなので、木材の強さとは関係がありません。

木材中の結合水と自由水

セルロースに結び付いて木の細胞内に取り込まれている水分を「結合水」と呼びます。木の細胞とは結び付いていない水分は「自由水」と呼びます。

木材中の水分の変化

①木材中の水分は、伐採されると少しずつ蒸発していきます。
②まず木材の細胞と結びついていない「自由水」が減少します。これによって木材の重量は減っていきますが、この段階では木材の特性にあまり変化はないと言われています
③自由水がなくなると、細胞に結び付いていた「結合水」が蒸発していきます。結合水が減り始めると木材は収縮し始め、強度が上がっていきます。
④そのまま放置しておけば、その場の温湿度とつりあった「平衡含水率」(=日本の屋外では15%程度、屋内では12%程度、空調された環境では10%以下)に近づいていきます。

天然乾燥と人工乾燥

木材乾燥には天然乾燥 (天乾、Air Dry) と人工乾燥 (人乾、Kiln Dry) があります。
この2種類の乾燥方法を併用するのは以下の理由からです。

1.例えば関東地方の平均温度は19度、平均湿度は75%あるので、天然乾燥だけを続けても平衡含水率の15%以下には下がらない
2.天然乾燥を長期間行う方法では、供給が需要に追い付かない
3.天然乾燥を省略して人工乾燥だけで乾燥させると、木材の組織に負担がかかって強度が低下するなどの不具合が生じる

木材の含水率

木材は伐倒した生材状態では、大量の水分を含んでいて、そのままでは楽器や家具の材料としては使えません。木材を乾燥させて安定させる際に、木材中の水分量を管理するための指標が「含水率」です。
含水率は「木材中に含まれる水分の重量」と「水分を含まない木材だけの重量」の比率で、以下の式で表されます。

 U = (Wu - Wo) / Wo X 100

 U : 含水率 (%)
 Wu : 水分を含んだ木材の重量
 Wo : 水分を除いた木材の重量

適正な含水率

ギター用木材の含水率は7%程度が理想とされています。含水率は以下のように調整していきます。

 木材購入時は30%以上 → 天然乾燥(4~6ヶ月)で20%程度へ → 人工乾燥(1~2週間)で7%程度へ

乾燥にかける期間は重くて硬い木材ほど長く取ります。

接着の信頼性からすると・・
  6~12% が妥当
  4%以下、15%以上は危険

塗装性能からすると・・
  12%以下が目安

総合的には・・
  人工乾燥後の状態で 6~8%

がギター製作に最適な含水率と言えます。

含水率と木材の強度

含水率が30%以下になって自由水がなくなり、さらにセルロースとセルロースとの間にある結合水が少なくなっていくと、セルロース同士が強く結び付くようになります。そして乾燥が進むにつれて、木材の強度はどんどん上がっていきます。

乾燥による木材の収縮

乾燥が進むと木材は収縮しますが、その割合にも方向性があります。木材が乾燥する際に反ったり、曲がったり、割れたりするのは、この収縮率に差があるためです。
また、収縮のしかたにも方向性があります。下の図は板材や角材に加工した際、どのように収縮するかを示したものです。
(林産試だより 2012年12月号 山崎亨史「木材と水の関係」より引用)

接線方向
  もっとも大きく、含水率1%の
  変化に対して0.2~0.4%

放射方向
  接線方向の1/2程度

繊維方向
  接線方向の1/20程度

木材の乾燥と音の関係

基本的に乾燥が進むと木材はよく響くようになります。
良い響板の条件として、比重が小さく曲げ剛性が高い(=軽くて丈夫である)ことがあげられますが、木材は水分が抜けるのに従って軽くなり、強度も上がるので、この条件にぴったり当てはまるようになるのです。

ヴィンテージギターの音が良い理由を木材の視点で考えると・・
1.そもそも出来の良かったギターが大切に残されてきていること
2.木材の乾燥が進んで良く響く状態になってること
3.弾きこまれるうちに、乾燥、接着、塗装によって木材内部に生じていた歪み、内部応力が徐々に解放されること
4.木材のセルロースが結晶化してより軽くて丈夫になっていること
あたりだと思われます。