Blog

Off Hours

超3結アンプの製作

6BM8 超3結アンプの製作

3年前に Champ Amp の回路を使った真空管ギターアンプを作ってみたら、これがなかなか面白かった。それでその後、林正樹さんの「真空管ギターアンプの工作・原理・設計」を読みつつ(←おすすめです)、ネットで真空管アンプについて色々調べていると、”超3結”という言葉が、あちこちに出てきます。

何でも超3結、正しくは超3極管接続とは、上條信一さんという方が考案された回路で「従来の真空管アンプの常識を超える音」が出るのだそうな。
へ~、そんなものがあるんだ。すごいな~、どれどれ、作るつもりはなかったけれど、配線図を書いてみました。

真空管なんて、今ではオーディオマニアとかギター弾きだけに珍重されているようなものだし、アンプを自作するにしても部品が非常に高くつく。そうは分かっていても、作った人たちがみんな「これがあの超3結の音か!」と驚きの声を上げているのが気になります。
それに「ローテクなのに革新的」というアプローチは、いつだって私の心に響きます。
部品棚を見てみると、前回ギターアンプを作った時の部品も結構残っています。こうなったら、部品表を作って、トランスやらコンデンサーを秋葉原に注文です。

数日中に秋葉原から次々と部品が届きます。
どれも黒くて、でかくて、カッコいい。電源で使う部品など、名前からして”スパークキラー”。
何やら全体的に危ない感じがするのもいい感じ。

6BM8という真空管はヤフーオークションで調達、2本で1900円。
トランジスタみたいなものと比べるとえらく高いですが、真空管の業界では安い方なんです。

それにしても、ガラス管の中に電極がいくつも複雑に組み込まれている様子は、見飽きることがありません。
ふむふむ、この中を電子が飛んだり、はね返されたりして音が出るんだね~。
ガラス管にCCCPとかロシア文字が書かれているのもうれしい。変な日本語Tシャツ来ている外国のみなさんの気持ちが分かります。
昔、ガラス瓶の中で小さな船を組み立てる「ボトルシップ」というものを見たことがあるけど、今でも作っている人はいるんでしょうね。

今回使うアルミシャーシは(あまりお金をかけるのも気がひけるので)タカチ製のYM-250というのにしました。上側と下側、両方ともコの字型になっていて、今回のように上面にも内部にも部品を組み込むのはちょっと難しそうではあります。

トランス、コンデンサーなど大物部品のレイアウトを決めて、シャーシの加工図を作りました。

後には引けなくなってきた真空管アンプ、先ずはシャーシ加工から。私は工具フェチでもあるので、こういう作業は楽しいです。

印刷した図面を貼り付けて穴を開けていきます。

このままでは裏側からの配線がしくいので、底面もカットしてしまいましょう。シャーシの上側とネジで固定すれば、それなりに強度も出そうだし、それでも弱ければ後で補強材を入れることにします。

ここまで来たら最後までやるしかない真空管アンプ、大物部品を組み付けて裏側から配線です。
真空管は扱う電圧が高いので、感電すればかなり痺れるし、配線を間違えると火が出ることだってあります。
私のような素人こそミスを避けるため、できるだけきれいに分かりやすく配線していかないと、痛い目にあいます。

セメント抵抗の熱対策。ヒートシンクを入れるスペースはないので、アルミチャンネルに抵抗を固定して放熱を期待するとしましょう。
安いケースは、トランスを3個載せるにはひ弱。裏側から3mm厚のアルミバーで補強する。
配線そのものよりもこういうのに時間がかかります。

組立が終わりました。間違いがないか3回も確認したから大丈夫なはず。
先ずは真空管を挿さずに電源を入れてみる。ヒューズは飛ばないし、焦げるような臭いもない。
あっちこっち電圧を測ってみる。電源部は問題ない・・・が、真空管まわりが異常に高い。
よく調べたら、おっと、抵抗の単位を間違えてます。ΩとKΩ。

名古屋の中でも、とりわけ魔界っぽい大須。そこににミニ秋葉原みたいな場所があるので、抵抗を買いに出かけました。200円の買い物のために地下鉄代が540円。

抵抗も交換したし、真空管を付けないで改めて各部の電圧チェック。今度は大丈夫!
真空管を挿して電圧調整、これも問題なく終了。
27年前のCDプレーヤーと最近作ったスピーカーボックスをつなぐ。
Our Lady Peace の BURN BURN をセットしてボリュームを少しずつ上げて行く・・・
おっ、ちゃんと音が出るじゃないですか。
ボリュームをさらに上げてみる。
ほ~、聞き慣れたCDが別のテイクみたいだね〜
6cmの小さなスピーカーでもちゃんとベースの音が出るんだね、今まで気付かなかった音が聞こえてくるね~

急いで色々なCDを用意する。
手始めに S.R.V.の "Little Wing"、ギターの弦がフレットが当たる音がリアルに聞こえるね~
Fourplay の "101 Eastbound" 、ベースの音がとても生々しい。
クラッシックギターも聞いてみよう。パリ・ギター三重奏団、これも透明感があって艶っぽくて良い。
オーケストラものはどうだろう、クーベリックの "わが祖国" ・・こういうのは大きいスピーカーで聞いた方が良いのかな、ちょっとスケール感に欠ける。
趣向を変えて、Gipsy Kings の "Inspiration"、言わずと知れたTV時代劇「鬼平犯科帳」のエンディングテーマである。何となくペケペケした曲の印象だったけど、意外と厚みのある音だったんだね。
色々と新しい発見があって、いよいよ面白い。
調子に乗って、志の輔の落語 "はんどたおる" のCDも聞いてみた。涙を浮かべて爆笑する観客が見えるようです。

今回作った真空管アンプの回路は、JK1EYPさんのホームページ「真空管アンプの自作」にあったものを使わせていただきました。左右の分離を重視した電源回路やノイズを減らすためのアースの取り回しなど、私のやりたかったことに合っていたためです。
この場を借りてお礼申し上げます。

私は高級オーディオというものを持っていないし、自分で作ったものに対しては評価も甘くなります。なので、正しい判断ができているわけではないんですが、この回路から出てきた音は、私の期待をはるかに超えるものでした。ボリュームをフルにしても、ノイズが全く聞こえてこないことにも驚かされました。
上條信一さんの考案が画期的なものであったことも、実感できました。

良い音が出る機器を揃えるのと音楽を楽しむこととは、目指すものが違うでしょうと今でも思っています。ただ、実際に良い音で聞き直してみると、その曲を作った人たちが本来やりたかったことが見えてくる気がして、これはちょっとした発見でした。