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ピックアップについて(詳細編)

ピックアップの設計、音作り

ピックアップの原理はかなり単純ですが、人が心地よく感じる音作りをするには、それなりのノウハウが必要ですが、音を決める要素は多岐に渡り、理論だけでは決めきれないので、実際のピックアップの設計では、実績のあるスペックに基づきながら、必要に応じて各スペックを試行錯誤によって調整していく作業となります。

マグネットの種類 (Magnet)

フェライト、アルニコ、希土類の3種類に大別されますが、それぞれに多くのバリエーションがあります。また、磁石の性能を示す数値が同等であっても、マグネットメーカーによっても微妙に音が異なります。そのため、ピックアップを新たに設計する場合は、色々なマグネットを使って試作し、音を聞きながら最適なものを選んでいきます。
低価格の楽器にはフェライトマグネットが使われていることが多いですが、フェライト、アルニコどちらが良いとは言い切れないところがあります。コイルその他のスペックをうまく調整することで、それぞれのマグネットの特性を生かしたピックアップを作ることが可能です。

フェライトマグネット

酸化鉄を主原料とし、セラミックマグネットとも呼ばれます。
製法は、磁場中でプレス成型 ⇒ 焼成 ⇒ 形状加工 ⇒ 着磁 という流れとなります。
アルニコより磁力が強く、安価で、オーディオ用、ギターアンプ用スピーカーにもよく使われています。アルニコよりパワー感があり、高域が強めでパンチの効いた音色になります。

アルニコマグネット

アルミ、ニッケル、コバルトを含む合金であることから、アル・ニ・コと命名されました。
製法は、原料溶解 ⇒ 鋳造 ⇒ 磁場中で冷却 ⇒ 形状加工 ⇒ 着磁 という流れとなります。
セラミックより磁力は弱く、高価なマグネットです。フェライトマグネット同様、オーディオ用、ギターアンプ用スピーカーにも広く使われています。
温かみのある豊かな音色で、ビンテージ系の音と表現されることもあります。ピックアップ用マグネットとしては最も一般的なのはアルニコ5ですが、アルニコマグネットの中にもいくつものバリエーションがあります。もっとビンテージっぽい音を、という場合はアルニコ5より磁力が弱いアルニコ2を使うこともあります。

希土類マグネット

レアアースマグネットとも呼ばれます。比較的最近になって実用化されたマグネットで、非常に磁力が強いのが特徴です。
ピックアップ用としては磁力が強すぎるので、通常のマグネットより小さいものを使い、コイルの巻数も減らすのですが、それでも硬くて冷たい音色になります。
機器を小型化できるので音響機器としてはヘッドフォン等に使われているようですが、今まで実験した限りではギター・ベース用ピックアップにはあまり向いていないように思います。

Rooftop Model 1, Model 2 のピックアップはアルニコマグネットを使用しています。

コイル (Magnet Wire)

1.コイル線の太さ

コイルに太めの線材を使うとピックアップの音色は太く明るく、細めの線材を使うと高域が減る傾向があります。ギター・ベース用のピックアップコイルには通常、以下の太さ(髪の毛くらいの太さ)の線材を使います。音作りがしやすいためですが、これより太い線材だとピックアップのボビンに必要な巻数が収まらなくなったり、これより細い線材だと断線しやすくなるためでもあります。

 ミリ規格
  0.06mm
  0.05mm

 US規格
  AWG42 (0.0025"= 0.0635 mm)
  AWG43 (0.0022"= 0.0559 mm)

2.コイル線の種類

コイルに使う線材は銅線ですが、銅線表面のコーティング材によっても音色は変わります。

エナメル線(Plain Enamel Wire)
 重心が低い感じの落ち着いた音色になります。

フォームバー線 (Heavy Formvar Wire)
 最近はあまり使われていませんが、エナメル線よりやや広がりを感じさせる、明るめの音色になります。

ポリウレタン線 (Polyurethane Wire)
 コイル用としては最も一般的な線材で、くせのない明るめの音色になります。

Rooftop Model 1, Model 2 のピックアップにはエナメル線を使用しています。

線材メーカーについて
有名なところでは、MWS, CFW(いずれもアメリカ カリフォルニア州), Elektrisola(ドイツ発祥)、その他にも世界中に多くの線材メーカーがあります。同じ種類、太さの線材であっても線材メーカーによって、ピックアップにすると微妙な音色の差が出るので、試作して音を聞きながら選んでいきます。


無酸素銅 (OFC) 線について
信号の劣化が少ないのでオーディオスピーカー用のケーブル等でも使われるOFCですが、今までに試した印象では、平面的でつまらない音色になってしまい、あまりギター用ピックアップには適していないようです。

3.コイルの巻数

コイルの巻数が多いとピックアップの出力は大きくなりますが、高域成分は少しずつ削られていく傾向にあり、巻き過ぎると暗い曇った音色になってしまいます。
基本的には巻数が増やすと出力レベルは大きくなっていくのですが、ある巻数を境に出力は頭打ちになり、それ以上巻数を増やしても逆にパワーは下がっていきます。
各ピックアップの平均的なコイルの巻数は、マグネットの種類や狙う音によって、またメーカーの考え方によっても様々ですが、だいたい以下のような範囲にあると思われます。

 ギター用ハンバッカー(アルニコマグネット)
  5,000 ~ 7,000 回 程度(コイル1個あたり)

 ギター用シングルコイル / P90
  8,000 ~ 10,000回 程度

 ベース用Pタイプ
  9,000 ~ 12,000 回 程度(コイル1個あたり) 

 ベース用Jタイプ
  9,000 ~ 11,000 回 程度

ベースプレート

ギター用ハムバッカー底面の金属プレートのことで、通常は洋白(ニッケルシルバー、ジャーマンシルバー)か真鍮(ブラス)の板材が使われます。
音質としては洋白が太くて落ち着いた音色、真鍮はやや高域寄りの薄い感じの音色で、通常は洋白の方が良い音にまとめられます。
洋白は銀色、真鍮は黄銅色なので、ピックアップを裏返してみると簡単に判別できます。

Rooftop Model 1 のピックアップは洋白製のベースプレートを使用しています。

ピックアップボビン

同じ巻数のコイルであってもボビンの形状によってピックアップの音色は変わります。平面積が小さく高さの低いボビンを使うと音の輪郭がはっきりした音になり、平面積が大きく背の低いボビンを使うとパワー感のある太めの音になります。
分かりやすいイメージとしては、(ギター本体の影響も大きいですが)ストラトキャスターのシングルコイルとP90の音の違いです。コイルの平面積が大きくなると、コイル内で打ち消し合う高次倍音の信号が増えることがその理由と考えられます。

ポールピース

ギター用ハムバッカーの2つのボビンにねじ込まれたり、打ち込まれたりしている金属製の部品がポールピースで、ピックアップの中の磁石から磁力線を誘導する役割を担っています。
この部品によっても音色は変わり、長さが短すぎると音がぼやけた感じになり、20mm程度の長さがあった方が音の輪郭がはっきりするようになります。また、材料の鉄が炭素量を多く含むと高域が削られた感じの音色になります。

ピックアップカバー

ギター用ピックアップには金属製のカバーが取り付けられているものもあります。カバーが付くとピックアップの出力レベルが低めとなり、音色も暗くなる傾向があります。ピックアップのワックス含浸(後述)が不十分な場合は、カバーの機械的振動によって金属的な音色が加わったり、音量を上げた時にフィードバックを起こす原因にもなります。
シングルコイル、P90、ベース用ピックアップのカバーは通常、樹脂製なので音質に直接的な影響はありません。但し、樹脂製のカバーでもポールピースも覆うタイプの場合は、マグネットが弦からの距離が1㎜程度遠くなるため、音色はやや暗くぼやけた感じになります。

ワックス含浸

コイルを巻いてピックアップを組み立てただけでは、アンプの直近で大音量を出した場合に、ピックアップはフィードバック(ピーという発振音)を起こしてしまいます。これを抑えるのがコイルのワックス含浸で、その手順は以下の通りです。

(1) 組み立てたピックアップを溶けたワックス(70~80℃)が入った容器の中に入れます。
(2) 容器を密閉後、真空ポンプで容器内部の気圧を下げます。これによってコイル内部の空気を抜いてコイルの奥までワックスを浸透させることができます。
(3) 容器内を大気圧に戻します。
(4) ピックアップをワックスから引き上げ、熱くなったピックアップを室温に戻します。

ピックアップを作っている人の間では、使用するワックスの種類によってピックアップの音が変わるという話があります。パラフィンワックスと蜜蠟(ミツバチの巣からとれるロウ)を半々に混ぜるといいとか。
ワックスはコイルの中に充填されるので、その誘電率の差が音に影響することは考えられます。