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塗装について

塗装の目的

木製の楽器を塗装する場合、木材を保護すること、着色したり光沢を出して外観を良くすることと合わせて「音をまとめる」のも重要な目的です。
全く塗装をしていないボディとネックを使ってギターを組み立てた場合、よく鳴る感じはあるものの、発散しすぎて「まとまりのない音」になります。塗装をすることによって、ボディとネックの振動が適度に抑えられ、「使える音」になります。

木製品の塗装は、木材乾燥、接着と同様、品質に直接影響する重要な工程で、技術の差が出やすいところでもあります。

塗装の厚さと音

「ギターの塗装をはがすと音が良くなった」という場合は何が起きているのでしょう?
表面の塗膜が削られることでボディやネックが振動しやすくなった一方、下塗り塗料がまだ木材の内部に残っているので、それがある程度の振動は抑えているものと考えられます。
塗料の種類にかかわらず、厚すぎる塗装は楽器本来の自然な鳴りを損なってしまいます。塗装は通常、下塗り~中塗り~着色~上塗り という工程になりますが、適切な塗膜の厚さは合計でも 400~500ミクロン (0.4~0.5mm) 程度です。鏡面仕上げできれいに見えても、塗料が厚く乗ったギターはあまりおすすめできません。
ラッカー塗装の音が良いとされるのは、ラッカーが硬めで厚塗りされない塗料だからと考えられます。

塗色と音

塗装の種類によって塗膜の厚さは違ってきます。一般的には以下の順で塗膜は厚くなります。

シースルーカラー : 木目が透けて見える塗装(ナチュラル、サンバーストなど)
ソリッドカラー : 木目が見えない塗装(メタリックではないブラック、ホワイトなど)
メタリックカラー : 細かい金属粉を含む塗装(シルバー、メタリックレッドなど)
フレイク塗装 : 塗膜の中にラメ(箔)を含んだ塗装

音の面からおすすめできるのは、やはりシースルーカラーのギターです。
塗膜の厚さ自体は、ソリッドカラーもシースルーカラーと大差ないのですが、外から木材が見えないソリッドカラーでは、少しグレードの低い木材が使われていたり、木材の貼り合わせ枚数が増やされていることが多いためです。
メタリックカラーは、シースルーカラーやソリッドカラーより塗膜がやや厚めで塗膜中に金属粉を多く含むこともあって、やや暗い音色になる傾向があります。
フレイク塗装ではさらに塗膜が厚くなるので「鳴らない」印象がさらに強くなります。

塗料の種類(合成樹脂系以外の塗料については後述)

合成樹脂塗料としては、ポリウレタン系、ポリエステル系が一般的です。
同じ系統の塗料でも、塗料メーカーによって、使用する工場の作業性に応じて、また、手吹きか静電塗装か等によって、様々な特性の塗料が作られるので、どちらが良いとは言い切れません。

塗膜の構成

通常の光沢塗装の工程は以下のように何層にも塗り重ねることで、木の導管を埋め、表面を平滑にし、着色をしていきます。

もっと簡単に木の導管も埋めず、さらっとした薄塗りにする場合は、以下のような工程になります。
木の導管 (pore) が表面に残ったままの仕上がりとなるため、オープンポア塗装 (open pore finish) と呼ばれます。

顔料と染料

塗料に含まれる着色剤には「顔料」と「染料」の2種類があります。

顔料
水や油に溶けない微細な粉末状の着色材です。
顔料は鉱物、金属化合物の粉末から、または化学的に合成して作られます。
顔料で着色した塗料は下地の隠ぺい力があるため、塗りつぶし塗装に使用されます。

染料
液状の着色材です。染料の多くは化学的に合成されて作られます。
染料系の塗料は透過性があるので、木目が見えるシースルーカラーに使用されます。

ラッカー塗装

ギター用塗料としてのラッカーとは、通常、ニトロセルロース(植物由来のセルロースをニトロ化したもの)を原料にしたラッカーを指し、合成樹脂を原料としたアクリル系ラッカーなどとは区別します。
硬化後の塗膜は硬く、靭性もあり、楽器用として良い塗料とされますが、耐熱性、対候性に劣り、経時変化によって黄変や細かいクラックが発生することがあります。塗膜厚は、0.2~0.3mm 程度です。

オイルフィニッシュ

亜麻仁油を主成分にした植物由来オイル(WATCO製が入手容易)を木地に直接染み込ませる仕上げです。
木地仕上げを入念に行ない、木材表面の傷などを消してからオイルを塗布する必要があります。
ネック背面を(汚れは防ぎつつ)自然な仕上げにするために、オイルを2~3回程度塗布するだけの場合が普通です。量産向けではありませんが、塗布⇒ウエットサンディング⇒乾燥⇒研磨 を20回ほど繰り返せば光沢仕上げにもできます

シェラック塗装

カイガラムシの分泌物を原料とした塗料で、ワイピングによる木地への擦りこみよ研磨を繰り返しながら、徐々に塗膜を作っていきます。シェラック塗装は、EGで使われることはほぼありませんが、高級クラッシックギターでは音の良さから、3ヵ月かけて200回程度、作業を繰り返します。それでも塗膜の厚さは 0.02mm 程度にしかなりません。